Log104

2019/06/04(Tue)

ニューオリンズへ（２）

ニューオリンズの中心市街地の東側には
ロウワ―・ナインスワードという近隣地区があります。
産業運河で中心部から隔てられたこの地区は、
被災前はほぼ100パーセントの住民がアフリカ系アメリカ人でした。

カトリーナはアメリカ全土で1800名余りの死者を出しましたが、
そのうち1000人がこの地区の方々でした。
当時ここには3400世帯が暮らしていたそうです。
すぐそばにある運河の堤防が切れ、一気に浸水したことで、
不釣り合いな被害の大きさになっています。

地区を歩いてみると、再建された住宅もありましたが、
更地になったままの土地もかなり多く残されています。
再建された家は敷地は広く、１階建てか２階建てでゆったりと建ち、
豊かな地区だったということが窺い知れます。

地域内には、住宅を利用した「リビングミュージアム」が。
残念ながら定休日でした。その外壁には、
地域の人々が苦労して働きながら住宅を獲得し、
そこから豊かになっていった歴史と、
ハリケーンの被害に遭った時の絵が掲げられていました。

ある家の前に座っていた年配の男性が話しかけてきました。
南部訛りがきつく、聞き取りにくかったのですが、
「おまえ、この地区のことを知っているのか？…おお、そうか。
　知っているならいい。わしはカトリーナの後に来たので、
　語れることはないが…とにかく、気を付けて行け」と。

幹線道路沿いにできていたチェーン薬局に入ると、
店員も含めて全員がアフリカ系アメリカ人で、
みんなが顔見知りで仲良し、という雰囲気でした。
中心部から隔てられた状況で苦労してきたからこそ
生まれてきたコミュニティが、そこにはあるようです。

一方で、「WE CUT LOTS AT ANY SIZES（土地分割します、どんなサイズにも）」とか、
「WE BUY HOUSES CASH ANY CONDITION（家買います、現金で、どんな状態でも）」
といった看板を時々見かけました。
ここで商売をしようと思っている人たちがいるようです。
そして新たにここに住む人も増えてきているのでしょう。

2019/06/04(Tue)

ニューオリンズへ（１）

昨日はルイジアナ州ニューオリンズへ。
ミシシッピ川がメキシコ湾に注ぐ河口に位置し、
かつては農産物の輸出港として発展し、その後工業都市、
現在はフランス、スペインの植民地時代の街並みを残す
観光都市として多くの人を集めています。
現在の人口は約４０万人です。

この都市の人口動態は、2000年の国勢調査時には
白人28パーセント、アフリカ系アメリカ人が
67パーセントでしたが、2010年にはこれが、
白人約33パーセント、アフリカ系アメリカ人60パーセントと
急激に変化しています。

その原因となったのは、2005年8月のハリケーン・カトリーナ来襲でした。
この時に、ニューオリンズでは市内の８割が冠水し、
多くのアフリカ系アメリカ人が亡くなり、また住まいを失っています。

右の写真は、ホリー・クロスという近隣で見かけた家。
右側の家の屋根には「WE NEED ICE GAS（氷とガス求む）」
という文字が見えます。おそらく当時屋根に避難していて
救援物資を求めた時の文字がそのまま残されているのでしょう。

2019/06/02(Sun)

デトロイトの再生（４）

今回デトロイトでは、ダウンタウンから西に３kmほどの
住宅街の中にあるホステルに泊まりました。
住宅街といっても、周りはほとんど空き地ですが。
https://www.facebook.com/HostelDetroit/

この宿で、「今晩、すぐ隣にフードトラックにが来て
イベントをやっていていい感じだから、ぜひ行ってみて！」
と勧められて行ってみると、こんな感じでした。

主催者が最初に、この集まりの趣旨は、
「地元で採れた食材を使った料理を通じて、
　一人一人が大地とつながっていることを実感し、
　人と人とのつながりを生み出すこと」だと語り、
"Let's Socialize!"な雰囲気を作ってくれたことで、
同じ宿に泊まっている人たちが話しかけてきてくれて、
とても楽しい夜を過ごすことができました。

The Pink Flamingoは、６年前に始められ、
毎週木曜日の夜に続けられています。
https://www.facebook.com/pinkflamingodetroit/

集まっている人たちはみんな若く、黒人も白人もいました。
近くに住んでいる人が多いようです。
ここから少し南に行ったコークタウンは、
ダウンタウン再生の余波を受け、煉瓦造りの道路沿いに
高感度なカフェやレストラン、ショップが増えていて、
また家の値段が安いので、若い人たちがこの辺りに
住むようになってきているのだと。

デトロイトで起こっていることは、
普通のジェントリフィケーションとは逆で、
集中的に投資が行われた中心部の再生にともなって、
その近くのエリアに、自発発生的な動きが生まれ、
ゆるやかにつながっている、というものでした。

活性化をとげた中心部と、置き去りにされた周辺。
この構図全体を改善するのはとても難しそうですが、
ここで起こっている動きが、デトロイトの未来に
いい形でつながっていくといいなと（おわり）。

2019/06/01(Sat)

デトロイトの再生（３）

では、再生している５パーセントの外側はどうなのか？
そのことを、アラン・マラック著「The Divided City」と、
ピーター・モスコウィッツ著「How to Kill a City」を
頼りに巡ってみました。

ダウンタウンから７kmほど東に行った住宅街には、
「オシアン・スウィートの家」が残されています。
家の横の歴史看板には、こう書かれています。

　アフリカ系アメリカ人医師、オシアン・スウィートと
　その妻グレイディーズは1925年5月にこの家を買いました。
　9月8日にスウィート一家がこの家に越して来ようとすると、
　黒人がこの近隣に入って来るのに反対する白人の住民たちが
　集まってきました。翌日には数百人がシャルボワ通りと
　ガーランド通りで合流し、スウィート一家をこの家から
　追い出そうとしました。群衆は石やブロックを家に投げつけ、
　スウィート一家ほか９名は中に避難しました。
　夕方に銃声が鳴り、白人男性が殺されました。
　警察はスウィート家にいた人々を殺人の容疑で捕らえました。
　有色人種の状況を改善する国内協会は、上院議員クラレンス・ダロウを雇い、
　彼は人種に関わらず人々の住宅を守る権利を主張しました。

つまりここは、1920年代までに形成された白人の近隣で、
ここに黒人家族が移ってくることを拒む人たちが
当時は暮らしていたのでした。
今、この家の隣や向かいの何軒かはすべて空き家です。
界隈には火をつけられた廃墟も多く、地域のランドバンクが
家を壊して芝生の空き地にしたり、木を植えたりして
どうにか環境の悪化を防ごうとしています。
ここに行くまでの途中の道では、茶色の紙袋に隠して
お酒を飲んでいる人を何人も見ました。
おそらくみなさんがテレビで目にしたことのあるデトロイトの風景です。

また、ダウンタウンから西北西に１５kmほどの所には、
クレリー・セントメリーという近隣があります。
前庭のために通りからセットバックした、
こじんまりした煉瓦造りの住宅が美しく並んでいます。

ここは1930年代から50年代にかけて
やはり白人中流階級のために作られています。
ホワイトフライト（白人の郊外移住）によって空き家が増え、
そこに黒人の中流階級が家を買って住むようになりました。
1980年にはエリアの84パーセントが黒人世帯になっています。

この地区の人口は、2015年までに４分の１減少し、
貧困層の住民が倍以上になっています。
その原因となったのは、21世紀に入ってから起こった
サブプライムローンバブルとその崩壊による
住宅価格の崩壊と、税収が激減した市が住民に対して
高い不動産税を求めたことによる差し押さえです。

これまで地区に住宅を買うことを許されて来なかった
黒人世帯が、この時に「略奪的貸付け」の標的となり、
金融機関はこぞって、返済能力のない人たちにまで
ローンを組み、住宅を販売しました。
このバブルが2008年に弾けた後に、多くの黒人世帯が
なけなしの財産を失うことになりました。

ダウンタウンの外側にはこんな世界が広がっていて、
行政はそこで起こっている社会課題に対してほとんど無策、
というのが、アメリカでデトロイトの再生を
少し厳しく見た時に下されている評価であり、
彼らにローンを組ませたのは誰？というのが、
都市再生の大立者に向けられているシニカルな視線なのです。

2019/06/01(Sat)

デトロイトの再生（２）

行ってみるまで気づいていませんでしたが、
デトロイトは、セントクレア湖とエリー湖を結ぶ
デトロイト川をはさんで、カナダと面しています。
再生されたリバーサイドには、歩いたり、ランニングしたり、
水辺を眺めて寛いでいる人たちがいっぱいいました。
ここはダウンタウンから歩いて数分で行ける場所です。

東側の方には、工場跡があります。
廃墟となって残っているものも一部ありますが、
コンドミニアムとして再生されているものもあります。
新築の住宅も増えているようで、ここに住めば、
ダウンタウンの賑わいも水辺のアメニティも
思う存分味わえることでしょう。

デトロイトの中心部で起こっていることは、
ジェントリフィケーションとは少し違います。

昔からの住民やアーティストをを追い出して
高級化が進んだわけはなく、死んでいた都心を
感度の高い投資によって蘇らせた、という話だからです。

ダン・ギルバートはそれゆえに、スーパーヒーローとして
讃えられることも多いようですが、一方でこの再生エリアを
「ギルバート村」と揶揄を込めて呼ぶ人たちもいます。

それは、彼が先導した民間投資による都市再生が、
デトロイト市の財政状況の悪化とあいまって、
「市ができない公共的事業を民間企業・団体が代行する」
という意味合いを持つようになったことによっています。

英語版のWikipediaに詳しいですが、デトロイトは、
南部からチャンスを求めてやって来た黒人たちに、
仕事や住宅の面で差別的な待遇をずいぶんしています。
そのために大きな暴動が２度起きていますが、
その後に白人の富裕層、中間層は郊外に住まいを移し、
市内には黒人の中流層以下が主に暮らすようになりました。
現在、市人口の82パーセントは黒人です。
このことで、税収の基盤が脆弱になっています。
https://en.wikipedia.org/wiki/Detroit

また自動車工場も郊外に移り、さらに石油ショック以降に、
燃費のいい車が求められるようになる中で
日本車との競争に敗れ、企業からの税金も激減しました。

そして前市長が詐欺やゆすりなどの犯罪に手を染め、
市に莫大な借金を残したこと、サブプライムローンの余波で
不動産税の税収がガタ落ちしたことなどによって、
市は2013年に破産してしまいます。
その頃のデトロイト市では、市内のゴミ収集や清掃は
行われず、街灯は消えたままになり、事件などで
通報しても警察がなかなか来ないなど、
公共サービスが著しく劣化していました。

そんな中、ダン・ギルバートは、防犯カメラを設置し、
また独自に警備部隊をつくり、パトロールや通報対応を、
市警察と連動して実施しています。
また基本的には民間の投資によって、ダウンタウンに
ライトレールを敷設しています。
一方でデトロイト市は彼の開発に対して、
不動産の投資減税などの優遇措置で応えています。

つまり、市ができなくなった行政サービスの提供や
都市ブランディングの取り組みを、民間が代行するように
なっているのですが、その投資が市域の５パーセントに過ぎない
ダウンタウンに集中投下されていることに、
多くの人々が危機感とやっかみを感じているのです。

2019/06/01(Sat)

デトロイトの再生（１）

さて、帰国まであと１２日となりました。
この間ヨーロッパから帰って来たばかりですが、
アパートにいると一刻も早く帰国したくなるので
鬼の心でツアーを組んでみました。

まずは昨日と今日で、ミシガン州デトロイトへ。
自動車の街として有名で、かつては180万人の人口が
ありましたが、1970年代以降には日本車の攻勢に押され、
経済的に深刻な打撃を受け、人口が減少を続け、
現在では67万人になっています。

市内には数万軒の数万軒の空き家があり、
犯罪発生率が全米一というディストピアな都市として
ご存知の方も多いのではと思います。

そんなデトロイトのダウンタウンが
近年再生しつつあるのを、ご存知でしょうか？

立役者となったのは、クイッケン・ローンズの創業者で
デトロイト出身のダン・ギルバートです。
彼は数千人の従業員とともに本社を郊外からダウンタウンに
移すだけでなく、ダウンタウンの建物を空き不動産を
次々と購入、補修し、また新たなビルを建て、
１階部分に感度の高いショップやレストランを誘致することで、
ほとんど空洞化していたエリアを再生させることに
成功しつつあります。彼がこれまでに投資した額は
20億ドルを超えていると想定されます。

実際に行ってみると、高層ビルが建ち並び、
その間には広場がうまく設えられ、建物の１階部分には
ショップやカフェ、レストランが並んでいます。
LRTやモノレール、バスなどが運行され、
シェアバイクやシェアキックボードに乗っている人々、
ランニングしている人々がいました。
そしてこれは期間限定でしょうが、
中心の広場がビーチのようになっていました。

2019/05/27(火)

ナポリの庶民地区へ（６）

今回のヨーロッパ紀行にお付き合いいただいたみなさま、
ありがとうございました。

当初のイメージは、ジェントリフィケーションに
関わる風景を、ロンドン、バルセロナ、ナポリで探ろう
というものでしたが、実際に足を運んでみて、
都市の再生にはティッピングポイント（臨界点）がある、
ということを強く感じました。

それを超えるための条件が揃った時に再生は始まり、
進み過ぎると新たな問題が起きるけれど、
超えることができずに苦闘している都市は、
ジェントリフィケーションが起きている都市よりも多く、
そこでは解決すべき問題が山積している。

今回ヨーロッパに出てみたことで、
都市にはどういう問題が起こり得るのかという視点を
より広く持つことができるようになった気がします。

最終日には、ナポリから１時間ほどのところにある
ソレントという観光地を訪ねてきました。
ナポリの富裕層や、多くの観光客が夏のヴァカンスを
過ごす街なのだそうです。

たぶんみなさんがナポリで見たかったのは、
こういう風景ですよね。本当に素敵な街でしたよ。
「ナポリを見てから死ね」という諺があるそうですが、
みなさんも、死ぬまでに、ぜひ！（おわり）

2019/05/26(月)

ナポリの庶民地区へ（５）

今回中橋さんと一緒に巡ったのは、
旧市街の北の方にあるスカンピアという、
1960年代にニュータウンとして開発された町です。

この町には「Vele di Scampia（スカンピアの帆船）」
と名付けられた、三角形の高層住宅が並んでいます。
手掛けたのはフランチェスコ・ディ・サルボという建築家で、
ル・コルビュジエの公営住宅の思想や丹下健三の建築に影響を受け、
そこに暮らす家族がコミュニティを育むことができるように
設計されていました。

が、実際にはそうはなりませんでした。

1980年に南イタリアで起きたイルピニア地震によって
多くの人たちが住まいを失いました。スカンピアには、
彼らのために新たな住棟が建てられましたが、
一部の人たちは、空き家を不法占拠して暮らし始めました。
商業地区も娯楽施設も交番もなく、地下鉄も通っていなかった
この地域は、完全な陸の孤島になっていたのです。

やがてこの町にはギャングがやって来て、
ドラッグにまつわる犯罪の拠点を形成し、
対立組織間での抗争まで起こる超危険な町になりました。
さらにその犯罪を暴こうとした女性が
ギャングに惨殺される事件も起こっています。

以上、Wikipedia情報より。
そんな町に、中橋さんと出向いたのでした。
https://en.wikipedia.org/wiki/Scampia

新しく建った住棟には、１階にバルや日用雑貨店があり、
入ってみても、特に問題があるようには見えませんでした。
その向かいに残されているVele di Scampiaのうち
人が住んでいない住棟は、３ヶ月後に取り壊されるとのこと。

2005年には、スカンピアまで地下鉄が開通し、
新しく綺麗な駅ができていました。
そしてそのすぐ前にある住棟には壁画が描かれています。

この壁画は、ジョリットというアーティストの作品です。
描かれているのは映画監督のピエル・パオロ・パゾリーニと、
アメリカの政治活動家、アンジェラ・デイヴィスです。
パゾリーニは上の女性と同じようにファシスト達に惨殺されており、
アンジェラは1970年に殺人事件への関与の嫌疑をかけられ、
投獄されています。
顔に赤い筋が描かれているのは、
彼らが「戦士」であることを表しています。

つまり、彼らに表象される事件はこの町の問題でもあり、
その問題と闘うことで、地域を良くしていこう、
というメッセージが、この壁画には込められているのです。

この壁画が完成したのは、今年の１月のことです。

この町に住んでいる人たちの半分は失業状態にあり、
日本のような生活保護制度があるわけでもありません。
このニュータウンを再生させるためには何が必要で、
デザインはそのために何ができるのか。

スカンピアの町は、そういうことを教えてくれます。

2019/05/25(Sat)

ナポリの庶民地区へ（４）

イタリアは長らく移民の送り出し元でしたが、
1970年代後半に英・仏・独が移民受入れを制限するように
なって以降は、イタリアへの移民が増えています。
ただ、その多くは豊かな北イタリアに向かい、
南にやって来る移民は多くないと言われています。

ナポリ中央駅周辺では、バルセロナと同じように、
トルコ人のケバブ屋やアフリカ人の偽ブランド売り、
またインド、スリランカや中東から来て洋服や雑貨を商う
人たちを多く見かけます。また麻薬や売春など、
イリーガルな仕事に手を染める人たちも多いとのこと。
彼らは現状を変えるための新天地を求めてナポリにやって来るのでしょう。

移民街を少し入っていったところの広場で、
フリーマーケットのように、布を広げて洋服や靴、
雑貨などを売っている男たちが一杯いたのですが、
何気に写真を撮ると、一人が「デリコ！」と叫びました。

「あ、やば」と思い、その男に近づいてカメラを示し、
撮った画像を削除して見せたのですが、周りから何人もが、
「デリコ！」「デリコ！」叫びながら近寄ってきたので、
僕は「Delete! Delete!」と言いながら走り去りました。
きっと偽物や盗品を商っていたのでしょう。
ここではWalkin’Aboutも命がけです。

写真は翌日夕方に同じ場所に行った時のものです。
僕が走り去った時には、この広場全体がマーケットでした。

最初は「なぜ行政や警察はこれを放置しているのだろう？」
と思ったのですが、彼らを見ていると健気にも思えてきます。
国を渡って来て、郊外に大勢で住み、車でここまで出てきて、
さして儲からないであろう物売りに日々勤しむ。
これを禁じると、彼らは食べていくため、国に送金するために、
もっとイリーガルなことに手を染めるに違いない。
そういう考えから放置しているのかも知れません。
（単に手が回っていないだけかも知れません）

移民の問題、貧困の問題を都市のレベルで観ていると、
「人は生きていくために、何の仕事に就くのか？」
という問いに対し、一人一人がどういう答えを出しているのか、
という風景が浮かび上がってきます。

合法的な仕事で全員を養うことができない都市では、
インフォーマル、イリーガルな生業が必然的に現れてくる。
それが蔓延すると、都市や住民に致し難いリスクをもたらし、
できれば住みたくない、一刻も早く立ち去りたい街になる。

こういう状況を、デザインで解決することはできるだろうか？
日本がこうなることはすぐにはないと思いますが、
少なくともヨーロッパの都市には、それが求められています。

＊ナポリの治安については、こちらに詳しいです。
https://sekaitrip.com/napoli-public-safety

2019/05/25(Sat)

6/13(木)に帰国します

突然ですが、6/13(木)に日本に帰ることにしました。
そして日本での日常を再開します。

6/26(水)夜には、Talkin'Aboutを。
スペイン語版インターネット日本芸能百科事典
“ARTES ESCÉNICAS DE JAPON”を運営するマウリシオ氏に
日本の伝統音楽の魅力についてお話しいただきます。

Talkin’About「ビバ！日本伝統音楽」～南米コロンビアの視点から語るその魅力～
Viva! Japanese Traditional Music　- a personal discovery from Colombia

2019年6月26日（水）7pm～9pm
話題提供：マウリシオ・マルティネス・ロドリゲス氏
（スペイン語版インターネット日本芸能百科事典クリエイター）
場所：大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所　都市魅力研究室　http://www.toshimiryoku.jp/access.html
　参加無料

南米コロンビアから来日し、日本・アジアの舞台芸能を研究しているマウリシオさんが今回のゲストです。自国の国立大学でチェロを学んでいたマウリシオさんは、民俗音楽学の授業で日本の伝統音楽に出会ったことがきっかけで研究の道に進み、現在はスペイン語圏に、日本・アジアの芸能を紹介するためのメディアを複数プロデュースしています。マウリシオさんが、南米から見ておよそ地球の裏側にある日本の、しかも伝統音楽に彼が魅了された理由は――？　作家のガブリエル・ガルシア＝マルケス（ノーベル文学賞受賞）や、画家・彫刻家のフェルナンド・ボテロらが育んできたコロンビアの文化的土壌や、自ら運営しているスペイン語版インターネット日本芸能百科事典“ARTES ESCÉNICAS DE JAPON”の活動などをふまえて、日本の伝統音楽の魅力について語っていただきます。

Mauricio is a Japanese and Asian performing arts researcher from Colombia. He has been creating several online Medias to introduce Japan and other Asian countries' performing arts to Spanish-speaking countries. He is from the country of famous personalities such as the Literature Nobel Prize winner Gabriel Garcia Marquez and the worldly famous painter and sculptor Fernando Botero. He first learned cello, and then got fascinated of Japanese traditional music at an ethnomusicology class at the National University of Colombia. This time, Mauricio will talk about his Colombian cultural background, how he got attracted by Japanese traditional music, and his current research activity and development of the Web Encyclopedia of Japanese Performing Arts in Spanish.

また7/2(火)夜には、マチ会議を開催。
参加者それぞれに、どこかの街の話をしていただきます。
19:00～＠大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所　都市魅力研究室

＊写真：バルセロナ・バルセロネータ地区

2019/05/24(Fri)

ナポリの庶民地区へ（３）

ナポリの庶民地区には、個人経営のピザレストラン、パン屋、バルなどが
街のあちこちにあります。エスプレッソは１ユーロ程度、
ピザは５ユーロ程度ととても安く、こうした飲食店が
地域にしっかりと根付いているのを感じます。

ナポリではチェーン店をあまり見かけませんでしたが、
「うちは何世代も前からこのピザ屋」という人たちが多く、
一般的マーケティングが成立しない土地柄なのだそうです。

実はどこで食べても味はそう変わらないようで、
日本でラーメン屋やカレー屋がそれぞれ独自に工夫を凝らし、
多様化することでお客さんを集めているのとは対照的です。
中橋さん曰く「食に対して保守的」なのだそうで。

個店がチェーン店に駆逐されない街というのは、
経済的に持続可能な社会のモデルにもなりそうですが、
一方で、南イタリアを出て北イタリアに向かったり、
海外に出て行ったりする人の数はかなり多いようです。

イタリアにはよく知られているように「南北格差」があり、
南イタリアは北に比べて収入が低く、貧困率が高くなっています。
バルセロナの旧市街でジェラート屋やイタリアンバルを
よく見かけましたが、彼らはより豊かになることを目指して、
まったりとした現状を越えていった人たちなのかも知れません。

2019/05/24(Fri)

ナポリの庶民地区へ（２）

僕が泊まった旧市街は、このサイトでは、
「歩いていると、狭い通りをスクーターが走り抜け、
　路地の一角やバールで近所の馴染みのおじさんたちが
　陽気に世間話をしている姿を目にすることも」という
いい雰囲気のエリアとして表現されています。
https://welove.expedia.co.jp/destination/europe/italy/24437/

実際にここを走り抜けているのは、オートバイです。
細い路地をクラクションを鳴らして走り抜けていきます。
車の運転は難しいほど狭いのですが、車も通ります。
歩行者を優先するという気遣いは一切ありません。
左の写真はPorta San Gennaro門の前を撮ったもので、
右側にはカフェのテラス席があるのですが、
その前をバイクがどんどん走り抜けていきます。

また、ゴミを平気で道に捨て、犬のフンも片づけないので、
路地は悲惨な状況になっています。何人かで喋っていた
近所のおばさんが、落ちていたペットボトルに近づいて
いったので、拾うのかと思いきや、蹴っ飛ばしていました。
この公共精神のなさには目を見張るものがあります。

南イタリアは貧しく荒廃していると聞いていたので、
そのためなのかと思っていましたが、中橋さんによると
「昔からずっとそうですよ」と。

１９世紀のヨーロッパ都市を描いた絵に、アパートの
上の階の窓から汚物を捨てているものがよくあります。
下水道がなく、表の通りを馬車が走っていて、
馬のフンが落ちているのが当たり前だった時代には、
通りが汚いのは日常の光景だったのでしょうが、
住民のマインドは、あの時代で止まっているに違いありません。
http://karapaia.com/archives/52189909.html

この街ではまた、アパートの窓から紐をつけたバケツを
下に降ろし、１階のお店で商品を入れてもらって
引き上げるという「買い物」光景が日常的に見られます。
ベランダにバケツがある家が多いのはそのためです。

写真は実際にバケツを引き上げているところです。
観光地化している路地で、籐で編んだカゴを
下に下ろしている人形を見かけましたが、
つまり、住民たちは昔からそうしてきたのでしょう。

こういう、何百年もそのように暮らしてきた住民たちの
クラシックな営みは、飾らない素朴な魅力と言えなくもないですが、
少しはジェントリファイ（紳士化）した方がいいのでは、
とも正直思います。特にまちが汚いのは、何とかした方がいい。

2019/05/23(Wed)

ナポリの庶民地区へ（１）

おかげさまで、ヨーロッパ３都市訪問を終えて、
無事にケンブリッジのアパートに戻っています。
さて、今からナポリ編が始まります。

ナポリは、イタリア南部カンパニア州の州都です。
古代ギリシアの植民市に起源があり、
ローマ帝国の支配下に長くありました。
歴史的建築物が多く残されるナポリ歴史地区は
世界遺産に登録されています。

今回ナポリを訪れたのは、ナポリ在住で
地域再生に関する調査・執筆を行っておられる
中橋恵さんを訪ねて一緒にまちを見に行くことでした。

中橋さんが昨年共著で出された本はこちら
「イタリアの小さな村へ―アルベルゴ・ディフーゾのおもてなし―」

僕が泊まったのは、旧市街と呼ばれる地域です。
昔からの４、５階建ての建物が密集して建ち並び、
いい雰囲気の路地が縦横に走っています。
そんな一角のアパートの３階にできた、綺麗な部屋でした。
（その部屋の写真を撮り忘れてしまいましたが・・・）
https://www.booking.com/hotel/it/le3maschere.ja.html?aid=304142;label&fbclid=IwAR3qSH4Va8N15zZvFtqQeDNnmhDqPtVtjnebiZmkpYhs0w_UQtbu7YgtSsQ

2019/05/23(Wed)

バルセロナのジェントリフィケーション（８）

ラバルよりも西、モンジュイックの丘のふもとにある
イタリアンバルに、バルセロナ初日に入ってみました。

カウンター席では常連客二人とバーテンダーの女性が
笑いながら何かの話で盛り上がっていました。
その女性には英語が通じたので、サラダとビールを頼み、
ここがとてもいいお店であることを感じながら飲んでいました。

ビールをもう一杯頼んだ頃に、常連の二人が英語で話しかけてきました。
「日本といえば、僕らはARAREの大ファンだ。
　子どもの頃にドラゴンボールやARARE観て育った。
　これがカタルーニャ語のARAREだ」と、ユーチューブで
Dr.スランプのオープニングを見せてくれました。

ママは「この辺りは庶民的な地域。カタランを話す人も多いわ。
観光客がこのお店に入ってくることはほとんどないわね。」
お店の近くを昼にも歩いていましたが、ベランダに
「アスタラーダ」と呼ばれるカタルーニャ独立旗を
掲げている家が確かに多かったです。

お店は奥に長く、奥にはバーと別にキッチンがあり、
そこではママのご主人が調理をしていました。
ご主人はナポリ出身で、僕があさってからナポリに行くというと、
「ナポリはいい街だ。ぜひ楽しんで」とハグしてくれました。

翌日夜、11時半頃にお店を再訪するともう閉店前で、
ワインを１杯だけ頂きました。ママは黒人のようにも、
ヒスパニックのようにも見えたので、
出身を尋ねてみると「Guinea Ecuatorial（赤道ギニア）」と。
中央アフリカの海沿いにある小さな国です。
彼女の母国語はスペイン語で、それ以外に英語、イタリア語、
そしてカタルーニャ語を喋れるのだそう。
「私たちがバルセロナで働くには、それが必要なのよ」

「今日、ラバルという地区に行ってみた」と話すと、
「あそこには移民が多い地域。危ない人たちもいるけど、
　レストランのキッチンで働いている人がたくさんいる。
　みんながあそこに住むのは、家賃が安いからなの」と。

このお店は、開業して５年ほどで、
ご夫婦の間には３歳の双子の男の子がいます。
海外からやって来てバルセロナで店を構え、
地元の常連さんたちとすっかり馴染み、
愛されているこのご夫婦は、そこに至るまでに
どんな経験をして来られたんだろうと思いつつ、
バルセロナを後にしたのでした（バルセロナ編、おわり）。

＊ここはBAGARIAという名前のお店です。　
　バルセロナの地元の雰囲気を味わってみたいという方は
　ぜひ覗いてみてください。
　BAGARIA　https://www.facebook.com/bagariabarcelona/

2019/05/21(Mon)

バルセロナのジェントリフィケーション（７）

バルセロナを歩いていると、移民の人たちが
いろんな方法で生計を立てていることに気づきます。

観光に関するところでは、インドの男性が土産物や
インドの布を道やビーチで売っていたり、
アフリカ系の男性が偽ブランド品を大規模に売っていたり、
イタリアのジェラート屋が多く見られたりします。

さきほどのラバル地区は移民街になっていますが、
トルコのケバブ屋や、イスラムの食材店やパン屋など、
同郷や同宗教の人たちのためのお店もいろいろあります。
またフィリピンの人たちは、自分たちのお店を出さずに、
いろんな飲食店のコックやシェフとして多く働いているのだと。

アメリカではトランプ政権が移民を締め出そうとしていますが、
スペインは移民を容認する政策を取っているそうです。
目と鼻の先がアフリカで、中東にも近いというロケーションで、
観光客がいっぱいやって来るバルセロナには、
合法な仕事も、非合法な仕事もいっぱいあるのでしょうが、
その多様さに改めて驚きました。

2019/05/21(Mon)

バルセロナのジェントリフィケーション（６）

ジェントリフィケーションが起こっている時の
バロメーターとしてアメリカでよく言われるのは、
お洒落なカフェやビール醸造所ができるというものですが、
住民の階層が上がっているかどうかでいうと、
より確かなのは、高級食材屋のようです。
食材を持って帰ろうという距離に住んでいるから
そのお店で買い物をしようと思うわけですね。

さきほどの、歩行者空間化した生鮮市場の前には、
二つの食料雑貨屋が並んでいました。
左は、前に子どもが乗る馬ののりものが置いてある
昔からのお店で、右はオーガニック食材を扱うお店です。

次の写真は、もう少し北側、グエル公園の近くにある
グラシアという地区にあった野菜屋さんです。
店名などに英語が使われるようになるというのも、
ここでは一つのバロメーターになっているようです。
そしてこの地区の家賃はそろそろ、庶民的ではなくなっているようです。

ピカソ美術館を含むカスク・アンティック地区は、
70年代後半、フランコ独裁政権崩壊後に、
市民団体を中心に立てられた、多孔質化を中心とした
修復型のプランが採用され、歴史的建築物を活かした
まちなみを残しつつ、アメニティを向上させることに
成功しています。

その結果、界隈にはお洒落なカフェやレストラン、
洋服屋、雑貨店などが増えていきました。
日本でよく見られるまちの高感度化と同じ道筋です。
阿部さんと一緒に歩いてみると「空き店舗が多くなっている」とのこと。
家賃が上がり過ぎているのかも知れません。
（大阪でもかつてアメリカ村や堀江で、そういうことが起きていました）

2019/05/20(Sun)

バルセロナのジェントリフィケーション（５）

バルセロナ市では十数年前から、「スーパーブロック」と呼ばれる、
道路空間の大変革をおこなっています。
https://citiesofthefuture.eu/superblocks-barcelona-answer-to-car-centric-city/

これは、正方形の街区９つ分（３×３）の外側のみを
車が走れるようにして、その内側の道路は
基本的に歩行者空間に変えてしまう、というものです。

上の記事にありますが、クルマ社会化が進んでいた
バルセロナ市では、空気汚染やCo2、騒音の問題などが
深刻化していましたが、その改善プロジェクトを任されたチームが、
市内のバスルートや運行スケジュールを徹底的に見直すことで、
道路交通量を画期的に減らすことに成功しています。
ちなみにこのプロジェクトチームの中に、
僕が一時ケンブリッジのカフェで毎日のように
顔を合わせていたMIT研究員の吉村有司さんもいたそうです。

「交通量が減ったんだから、道路はそんなにいらないはず」
実証データに裏打ちされる形で、クルマのための街から
人間のための街へとリ・デザインするという営みが、
このスーパーブロックなのです。

写真は生鮮市場前のスーパーブロック。歩道と車道の高さを
一緒にしてあって、とても歩きやすくなっています。

このように、バルセロナの公共空間は
非常によく考えられてリ・デザインされています。
それを見に行くだけでも、十分に価値がありそうです。

2019/05/20(Sun)

バルセロナのジェントリフィケーション（４）

阿部さんには、バルセロナの中での旧市街再生事業が
実施された場所をご案内いただきました。
その一つ、ラバルという、バルセロナのメインストリート、
ランブラス通りの西側にあるエリアについて少し。

この地域の起源は１３世紀に始まり、
１８世紀に市街地化が本格化します。
やがて建物の増改築が重なり、通風や日照に問題のある、
密集住宅地になっていました。1980年頃には高齢化と
人口減少が起こり、失業者と退職者の多い街に、
そしてそれを埋めるように多くの移民が暮らす街に
なっていました。

1985年に承認され、その後実施された地域再生事業では、
地域に文化的施設を作ったり大学を誘致することで、
さまざまな市民がこの地域にやって来る目的を創出したり、
密集していた建物を除去して、質の高い公共空間や
緑地を設けること（多孔質化）によってアメニティを高める
ということを行っています。

＊詳しく知りたい方は、阿部さんの本をぜひ。

写真上は、バルセロナ現代美術館（MACBA）。
写真下は、衰退していた５つの街区を取り壊して
生まれたラバル遊歩道です。

こうした再生事業の結果、ラバル地区は従来より
地価が上がったり、ミドルクラスが住むようになったり
しているそうです。一方で、犯罪の匂いの色濃くする地域も
中に残されているため、一気に住民が入れ替わるという
状態にはなっていないようでした。

2019/05/20(Sun)

バルセロナのジェントリフィケーション（３）

今回のバルセロナでは、龍谷大学政策学部の
阿部大輔教授にご同行いただきました。
都市計画・都市デザインを専門とされていて、2009年には
「バルセロナ旧市街の再生戦略」という本を出されています。
http://book.gakugei-pub.co.jp/mokuroku/book/5324barcelona/hajimeni.htm

阿部さんはこの１年間バルセロナに滞在して
オーバーツーリズムの研究を深めておられます。

阿部さんの話でまず面白かったのは、
観光客が一杯やって来ることで起きる現象は
文字通りの意味での「ジェントリフィケーション」、
つまりまちが活性化したり高級化したりするということでは
必ずしもない、ということでした。

確かに、派手な土産物屋ができたり、観光客を捕まえようとする、
さして美味しくもないレストランが増えることになったら
まちの魅力はむしろ下がりそうでしょうし、
ふだん使いできるいい日用雑貨店やスーパー、
行きつけて馴染みになれるレストランやバーがなく、
普段の生活が観光客に日々晒されるとなると、
そのまちに住もうという気分にはならなさそうですね。

2019/05/19(Sat)

バルセロナのジェントリフィケーション（２）

バルセロナで僕が泊まっていたのは
ゴシック地区という旧市街にあるアパートの
３階の部屋を活用したAirbnbの宿でした。
すぐ近くにはサンタ・エウラリア大聖堂があり、
観光地のど真ん中に位置しています。

ところでバルセロナ市では、歴史地区での新たな
商業施設等の開設を禁止したり、新たなホテルの建設を
禁止したりという政策を取っています。
https://toyokeizai.net/articles/-/164660

写真左はバルセロナ現代美術館近くにあったメッセージ。
住宅地にAirbnbやホテルはいりません、ということが
書いてあるのだそうです。
そんなところに泊まってすみません・・・
でも泊まってこそ分かることもいろいろあるのです。

僕が泊まった宿の主は、いわゆるスーパーホスト、
つまり宿泊客からの好評価を勝ち得ている人物です。
彼は宿を専業にしているようで、一室に寝泊まりしつつ、
宿泊客にその宿に泊まるうえでの心得とルールを
うまく徹底させ、トラブルが起きないようにしていました。
逆風の中、そうしていないと経営できないのだろうと。

さて、僕は今はナポリにいます。
リアルタイム更新をと思っていたのですが、
バルセロナで挫折しました。これ以降の更新は
少し後になると思います。あしからずご承知を。

2019/05/17(Fri)

バルセロナのジェントリフィケーション（１）

「Bye Bye Barcelona」というドキュメンタリー映画があります。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=3&v=kdXcFChRpmI

スペイン・バルセロナ市の人口は約１６０万人ですが、
観光客は年間に８００万人以上訪れています。
そのことによって、地域の人たちにとって歴史的に重要な
ランブラス通りや、アントニオ・ガウディが手掛けた
サグラダ・ファミリアやグエル公園が観光客のものになり、
時に浮かれ騒ぐ観光客のために地元の安寧が損なわれ、
土産物屋や観光客向けのレストランばかりになって
地元の人たちの居場所がなくなり、
地域に無数のホテル、ホステル、無許可の宿泊施設などが
できたことで賃料が上がり、この街に暮らせなくなった人たちもいる。
そんな状況について紹介したのがこの映画です。

つまり、バルセロナにおけるジェントリフィケーションは
「観光公害」というイシューになるのです。

そんなバルセロナに来ています。

2019/05/16(Thu)

イーストロンドンのジェントリフィケーション（５）

ショアディッチから南東に少し進んだところで
A11という道路に出てみると、広く取られた歩道部分に
果物や洋服を商う屋台がズラッと並んでいました。
その向かいの建物にも商店が並んでいるのですが、
これらのお店はほぼ全て、ムスリムの人たちが営む
ムスリムの人たちのためのお店でした。

それまで道を歩いていた時に、
ヴェールやヒジャブをまとった女性を見かけていましたが、
街がまるまるそうなっている風景に出会うと、
「ここは確かロンドンだったよね？」と。

そう、ヨーロッパにおける移民の存在は、
アメリカとはまた違うんですね。

ロンドン市民は2016年5月に、サディク・カーンという、
ムスリムの政治家を市長に選んでいます。
その1か月後の、EUからの離脱を決める国民投票でも
ロンドンや他の大都市の住民の多くは反対票を投じています。
https://www.theguardian.com/commentisfree/2016/dec/12/trump-brexit-cities-countryside-rural-voters

上の記事にありますが、ロンドンには現在、
イギリス人ではないEU市民が１００万人以上、
総人口の８分の１近くを占めているそうです。
多文化主義やリベラリズムが大都市で進む一方で、
地方ではそれに反発する動きが強まっていて、
それがEU離脱につながっていると。
このあたり、トランプ政権の誕生とパラレルです。

ロンドンを探っていく中で、このストーリーの
大都市側のありようが色々と見えてきました。
ジェントリフィケーションの問題についても、
人種の統合が進み、人種問題が前景化せず、
闘うことで市民の権利を取り戻そうという気概が
街全体から感じられたというのが、僕の感想です（おわり）。

2019/05/16(Thu)

イーストロンドンのジェントリフィケーション（４）

イーストロンドンを少し北に行ったところに
セブンシスターズという駅があります。
この駅の周辺はトットナムと呼ばれる、
２００以上の言語が話されている多民族地域になっています。

この界隈でも、ジェントリフィケーションが起きています。
https://www.nytimes.com/2018/01/01/world/europe/london-tottenham-regeneration.html

上のサイトには、地域の再開発計画や、2017年に起こった
高層公営住宅での火災の跡に億ションが建てられたりして
いることで、移民の人たちがよりどころを失いつつある、
といったことが書かれています。

トルコのケバブ屋、カリビアンの食料品、中華料理、
ウガンダ、ジャマイカ、ラティーノ・・・
商店街には小さな商店やレストランがひたすら続き、
本当にいろんな国の人たちが暮らしているのが分かります。
一方で記事にありますが、トットナムはハーリンゲイ区の
中でも貧しい地域で、所得は区の西側に比べると半分で、
学生の成績も振るわず、寿命は９年も短いそうです。

ここをウロウロしていると、ブルガリアから来たという、
ガタイのいい、サングラスをしてよく陽に灼けた
陽気な男性が声をかけてきました。
「日本人か！この町にいるのは、みんな優しいいい奴らだ。
　日本には相撲レスラーがいるな。200kgもあって、
　まわしをつけて闘うんだろ。この先に人気のある
　中国と日本の料理屋があるぞ。連れていってやろう。」

彼は陽気で、お酒に酔っているようで、同じ話を何度もします。
どんどん住宅街を進んだかと思うと、大通りに出たり、
また住宅街に入っていったりを繰り返します。
店じゃない場所に入ろうと言われたら断ろうと決めて、
小一時間ほど一緒に歩いていましたが、どんどん駅から
離れていくので、「時間がなくなった、帰らないと」と。

駅への途中、彼は「このノキアの携帯、いいだろう？20ポンドでどう？」と。
彼はただ付いてきただけですが、何らかの手打ちはいるなと思い、
駅の近くで彼に10ポンドを渡しました。
「案内してくれてありがとう。一緒じゃないと行けない場所を
　いろいろ見せてもらえて感謝している」と。

彼はここに住んでいるわけではなく、ブルガリアから
しのぎに来ているようです。
「夜にまた来ないか？きれいなオネエチャンを紹介するぞ
　チキチキしないか？（チキチキって、何だ？）」

セブンシスターズは、そんな町でした。
イーストロンドンは奥が深いです。

2019/05/15(Wed)

イーストロンドンのジェントリフィケーション（３）

ショアディッチからさらに東に行ったところに
ハックニー・ウィックとフィッシュアイランドという場所があります。

ここはかつては川沿いにできた工業地帯で、
石油、プラスチック、インク、染色や洋菓子の工場が
建ち並んでいました。後には印刷業の集積地になり、
さらに後には、捜索場所を求めたアーティストたちの
活動拠点となりました。最盛期は1000ものスタジオが集積する
ヨーロッパで最も密度の高いクリエイターハブでしたが、
2005年以降、徐々にジェントリフィケーションが進んでいます。
https://www.huckmag.com/perspectives/reportage-2/the-battle-to-save-east-london-is-this-finally-the-end/

このエリアに起こったことは、シリアルカフェの出店のような
小規模のものではありませんでした。
2005年にロンドンでのオリンピック開催が決まり、
そのメインスタジアムが目と鼻の先にできることになり、
会場の建設が始まるとともに、ディベロッパーによる
住宅・オフィス開発の波が一気に押し寄せています。
そして家賃が高騰したことにより、スタジオの３分の１は
すでにエリアからなくなっています。

ロンドンのアーティストの活動は、アメリカと比べて
とてもアグレッシブに見えます。上のサイトにあるように、
地域のアーティストたちは、ここでの自分たちの場所を
持続可能にするために闘い続けています。

2019/05/15(Wed)

イーストロンドンのジェントリフィケーション（２）

ジェントリフィケーションは世界中の大都市で
起こっていますが、ロンドンも例外ではありません。

僕が滞在しているのは、イーストロンドンの
ショアディッチという、多くのアーティストが活動し、
ライブハウスやクラブ、パブ、アパレルショップなどが
集まっている若者の街ですが、ここでも何年か前から、
ジェントリフィケーションが問題になっています。

具体的に起こっていることは、外からやって来て、
新たに商売を始める人たちが多いことで家賃が上がったり、
それに釣られるように開発が起こったりといったことですが、
ロンドンの人たちのすごいところは「闘う」ことです。
ただその闘い方に、若干の問題もあったりします。

ショアディッチにできた「シリアルキラーカフェ」が、
無政府主義者グループ「Class War（階級闘争）」が煽った
200人の群衆によって取り囲まれるという”事件”が、
2015年に起きています。
https://www.standard.co.uk/lifestyle/london-life/cereal-killer-cafe-owners-what-its-like-to-be-the-most-hated-men-in-london-a2970776.html

たかだか数ポンドでシリアルを出すカフェが
なぜ反ジェントリフィケーションの標的にされたのかは不明です。
上の記事によると、彼ら自身、ロンドンの高家賃のために
学生時代には飲食業の仕事を兼ねていたそうですが、
そのおかげで起業に踏み出すことができたそうです。

おそらく、この問題にセンシティブな若者たちが多く、
貧しい人も多いのに、朝から高いシリアルを食べられる
ヤッピーなんか集めやがって、という反感に
ミスリードされてしまったのでしょう。
闘うにしても、相手を間違えてはいけませんね。

Airbnbの宿主（30代ぐらい）にその話をすると、
「知ってる、知ってる。その日は仕事中に話を聞いたので
　現場は見てないけど、ビックリした。
　でも、あの事件がクライマックスで、その後は聞かない」と。

で、そこに朝食を食べに行くわけです。

あえてその時の話などは聞いていませんが、
逃げずに地道に商売を続けることで、いまでは地域の信頼を
勝ち得ているようでした。

ついでながら、ショアディッチの地元の写真家が
こんな写真集を出しています。本屋で入手して
ホクホクしているところです。
https://www.vice.com/jp/article/4w7mgn/ancient-hipsters-and-naps-in-the-pub-modern-shoreditch-in-pictures?fbclid=IwAR2HykRbguuMrp2aRzvFwgH-j79Xep_mW9RP-pyJEEVeEGOJnx1qgsKtFfY

2019/05/14(Tue)

イーストロンドンのジェントリフィケーション（１）

時差のため徹夜状態でイーストロンドンの街をウロウロ。
色々ありますが、アメリカと一番違うと感じた風景を二つ。

１つ目は1952年創業のフィッシュ＆チップスのお店。
働いているのはイタリア人の男性とインド人の女性で、
お客さんのルーツも色々。ロンドンは、人種の統合が
アメリカよりも進んでいます。

２つ目は夕方の街角風景。バーからはみ出してビールを
飲んでいる人が多数。彼らのほとんどが何も食べずに
ビールを飲んでいるのが印象的でした。

2019/05/13(Mon)

歩いて読みとく地域デザイン

そうこうしているうちに、本出版の詳細が決まりました。

「歩いて読みとく地域デザイン　普通のまちの見方・活かし方」
山納洋著　学芸出版社　2019年6月10日発売　2160円
https://honto.jp/netstore/pd-book_29623767.html

この本は、2014年に始めたまちあるき企画「Walkin'About」で
関西近郊のあちこちの街を巡り歩くうちに見えてきた、
一見何でもないまちを読み解くためのポイントをまとめたものです。

詳しい目次は、こちらで見ることができます。マニアックです・・・
https://honto.jp/netstore/pd-contents_0629623767.html

では、今からヨーロッパに行ってきます。

2019/05/11(Sat)

ニューヘブンへ（３）

イエール大学とは線路の反対側にあるイタリア人街に
「Sally's Apizza」という、1938年から続くピザ屋があります。
学生時代に通い詰めたというミスタージョンに導かれ、
午後3時にそのお店に行ってきました。
開店前には、自然と行列ができるお店のようです。

この記事によると、家族経営で続けてきたお店は
一昨年に投資コンソーシアムに売却されています。
https://www.courant.com/ctnow/food-drink/hc-fea-sallys-apizza-reopens-in-new-haven-20180228-story.html

その会社が昔ながらの味や雰囲気を残すことに
こだわったようで、ジョンも「昔と変わらない！」と
太鼓判を押していました。
せっかくなので、お店にも来たというフランク・シナトラの
写真の下で、ミスタージョンと記念写真。

お店のあるウースター通りには、他にもピザ屋や
ペイストリー、レストランなどが残っていて、
リトルイタリーとして活性化させようという動きがあるようです。

記事によると、投資コンソーシアムは
「Sally's Apizza」のテイストを守りつつ
全国展開したいと考えているようです。
こちらも長いスパンで動きを追っておきたいと思います（おわり）。

2019/05/11(Sat)

ニューヘブンへ（２）

イエール大学はここ１０年程の間に
大学のそばのショッピングストリートの不動産を購入し、
まちの感度を上げることのできるショップを
１００店舗近く集めてきました。

実際に見てみると、人通りのある通りに、
パタゴニア、LLビーン、アップルストア、
バーンズ＆ノーブルなどの有名店が並んでいます。
つまりイエール大学はこのように、何百万ドルかをかけて
世界から集まった優秀な学生や裕福な住民をターゲットにした
まちづくりを、直接手掛けているのです。

ニューヘブンの業務改善地区（BID）のトップは、
地域のレポーターのインタビューに対して、
「イエールが我々のチャレンジを助けてくれているのは、
統計データに関わらずこの街にやってくる小売店の獲得だ」
と答えています。（アラン・マラック「The Divided Cityより」）

ニューヘブンは、実は今も貧しい街です。
キャンパスに隣接するニューヘブングリーンは、
７０年代にはミスタージョンによると「ドラッグの売人が
多くいて、とても危ない雰囲気だった」そうですが、
今も低所得と分かる人たちが、時間を持て余したように
公園に集まっていて、キャンパスエリアとは雰囲気が違っています。

クリティカルマス（臨界点）という言葉があります。
まちの感度が上がり、そこに出店したい店や、
住みたいと思う人が増え、クリティカルマスを超えると、
家賃が全体的に上昇し、ジェントリフィケーションが起こる。
だがそれが起こるまでは、街に翳は射し続ける。

有名ブランドのお店を集まると、裕福な人が増えて
まちは活性化するのか。イエール大学はここで
大いなる実験を行っているように見えました。

2019/05/10(Fri)

ニューヘブンへ（１）

今日はカフェの友人・ミスタージョンと
日帰りでコネチカット州ニューヘブンまで。
ボストンとニューヨークの中間あたりにある街です。

ニューヘブンという街について、アラン・マラックは
「The Divided City」の中でこう表現しています。

ニューヘブンは、典型的な２１世紀の企業街である。
だがその企業とは、鉄鋼工場や自動車プラントではなく大学だ。
イエール大学とその傘下にあるイエールニューヘイブン病院は、
この小さなコネチカット州の都市を牛耳っている。
大学と病院は２万５千人近く、ニューヘブンで働く人の約３分の１を雇用している。
一方、１万２千人余り存在する同大の学生は
ニューヘブン住民の１１人に１人を占めている。
大学の支出、その労働者と学生が使うお金、その支出が支える
何千もの仕事と何百ものビジネスのもたらす効果を
因数分解すると、市経済に対するイエール大の貢献は
４分の３に達すると言っても過言ではないだろう。
（アラン・マラック著「The Divided City」山納洋訳より）

つまりニューヘブンは、クリーブランドのところで紹介した
「エッズ＆メッズ経済」で持っている街なのです。
1947年にはこの街には400以上の工場があり、
製造部門の労働者2万8千人が雇われていましたが、
2012年には70の作業場・スタジオで1500人が働くのみになっています。

ミスタージョンは、イエール大学を1968年、
今から51年前に卒業しています。
（ジョージ.W.ブッシュ大統領と同級生だったそうです）
今日はケンブリッジから車で２時間余りをかけて、
彼の母校を訪ねました。

まずはキャンパス内の写真をいくつか。

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